Corridor

花粉症の時期も過ぎ,気持ちの良い日々が続いている.
打ち合わせに数日出かけたが,あとはほとんど自宅で仕事をする日々.普段あまり会わないマンションの住人に出会う機会が多くなり,昨日はとうとう「仕事オヤスミですか?」と訝しげに尋ねられた.すいません,ぶらぶらしていて...
前に実家の解体の話を書いたが,その時に一番感心したのがこれ.(真ん中の写真)
何かというと,これは廊下の板の一番端を,下から掛け金のように引っかけていたモノである.名称は不明.
古い家だったので,まだフローリングのように組み木にする構造が無く,この廊下の板はネタ(構造を支える桟)の上に,表に出ないように斜めに釘で打ち付けてあった.(余談だがわりと長い廊下で,測ってみたら繋ぎ目無しで5.6mの材が使われていた.珍しいので何とかそのまま残せないかと思ったのだけれど,それほど数があるわけでもなく運ぶのも大変なので,やもなく半分に切断.)
で,この廊下を桟に打ち付けるには,写真の向かって左から板の側面と桟を釘で縫っていく.右利きの大工さんである.だがもうその作業の時には壁が立っているので,最後の3枚程度は右手に立つ壁との距離が近すぎて,思うように金槌が使えない.
たぶんそういう理由で,最後の3枚は大工さんが床下に潜り,この掛け金状のモノで床板を桟に固定していった模様.これが,その時の通常の工法なのかどうかは,僕には分からないが,一緒に解体を手伝ってくれた鉄職人の友人も僕も初めて見るものだった.
こういう細かな技がいろいろ発明されては,忘れ去られていくのかと実感.
結局,人の足が80年間近く磨き続けた廊下の板は,自宅の床に設置.木ネジを十数本使ったので,大家さんに見つかったら怒られるかもしれない.トップシークレットです.

Vacant land

Karasuma Syako

14日(土)・15日(日)と7月初めに公演する作品の打ち合わせに,山口に行ってきた.今月初めにも4日間ミーティングと実験のためにYCAM(山口情報芸術センター)に滞在していたが,今回はその追加ミーティング.
YCAMでは公演の合間を縫って,7月の作品のために実験をしてくれていて,実際の公演場所に仮のセットを組んだり,システムチャートを考えたりと,着々と準備が進んでいる.
単なる公演会場というのではまったくなく,ソフト・ハードの両面で,作品制作のパートナーという感じ.
プロジェクト自体のサイトは今制作中だが,簡単な告知は既にYCAMサイトに上がっている.興味のある方は見てみて下さい.
https://www.ycam.jp/archive/works/path/

ところでこの帰国中,おもに関わっていた実家の件だが,この前思い立って見に行ったら,何とも綺麗さっぱりさっさと更地になっていた.
あっけないもんだ,とはよく聞く弁だが,本当に家の最後というのも(人の最期と同じように),あっけないもんである.
このまっ平らになったスペースの上で,何人の時間がどれだけ交差したことか.
いろんな思いが絡み合ったのだろうけれど,もうその記憶は微塵も感じられない.
この場所の持ち主だった祖父は,晩年呆けて最後はここから歩いて10分程度の病院で息を引き取った.
葬式はここに建っていた家で行ったのだが,そのためには当然病院からここまで祖父を連れて帰ってこなければいけない.
何を使って,もう死んでしまった身体を運ぶのか.これは案外問題である.普通は車だろうが,でもそれは霊柩車でも救急車でもない.そういう特別な車があるにはあるのだが,わざわざ来てもらうには,家はほんの鼻先である.
かといって普通の車に乗せようとしても,とにかく相手はもう死んでいるので,身体が硬くなっていて,簡単にヨイショと折り曲げて,車の後部座席に座らせるわけにも行かない.本当に,こういう状況に陥った他の人はどうしているのか,聞きたいくらいであるが,その時にはそんな余裕もなかった.(ついでに携帯も持っていなかった.)
それで,その場にいた僕と父親は,ちゃんと病院の許可を得て,10分足らずの道のりを,可動寝台の上に祖父を乗せて,ゴロゴロとアスファルトの上を手動で押し帰ることにした.
時間はたぶん深夜近かったと思う.まあ,そりゃそうだろう,真っ昼間にのほほんと死体を運んでいるのは,どう考えてもまずい.もし誰かに出会ったら,どちらも災難である.
それでまあ,結局誰にも出会わず,夜中に僕らは祖父の死体を載せた寝台を押して,病院からこの場所まで移動した.確か病院の看護婦さんか誰かも,横について来てくれた記憶がある.
家の玄関は石段を5段上がらなければいけなくて,そこからは遺体を担いでいった.晴れた夜だった.
すごく特別なことのような気がするが,案外誰もが同じような経験をしているのかもしれない.
不思議なことに,その後十数年間あまり祖父の後を受けて家を守っていた祖母が,あのときどうしていたのか,どうしても思い出せない.悲しみに暮れて,何処かに引き籠もっていたんだろうか.

Bergen_Grieghallen/Norway

5月22日(日)の朝に関空を発ってBergen/Norwayへ.KLMなので,アムステルダム乗り換え.スキポール空港で4時間程度のトランジットだったが,異常に眠かった.このところ早寝早起きの生活が続いた上に,さすがに前夜はあまり寝ていられなかったので,飛行機に乗ってからほぼずっとウトウトしていたが,それでもまだ眠い.
Bergen行きの飛行機が,何かの修理のために1時間出発が遅れたために,飛行場の外に出る頃には既に22日の夜23時を少し回っていた.でもまだ空は明るい.
昨日/23日(月)は朝から仕込み開始.さすがに前夜は街の探索にも出ず,シャワーを浴びてすぐベッドへ.
会場のGrieghallenは,席数1500席余りと非常に大きいが,バルコニー(2階席)はなく,ステージ面からなだらかなスロープが扇状に広がる珍しい構造.しかも,ステージ面が客席最前列と同じレベルで,必要なら客席前側がオーケストラピットかもしくは予備の客席エリアとして沈むようになっている.
YCAMのStudioAが同じ構造だが,他ではあまり見たことがない.この構造は舞台床面が見やすくて良いと思う.またプロセニアムも完全に開いて無くすことが出来て,非常にフレキシブル.しかも客席が広がっている割りにはあまり見切れが無くて,両サイドの席でも何とか我慢できる.
まだお客さんが入っての公演を打ったわけではないが,使いやすくて良い劇場な気がします.
今日/24日(火)も朝から照明のフォーカスの続き.作業ペースがのんびりしていた割りには,問題なく午前中に終わる.
しかし今回は,フェスティバルのオープニングを飾ることになっていて,ノルウェーのロイヤルファミリーが初日に観に来るとか,僕らのステージ上で公演前にオープニングセレモニーを行うとかで,公演以外にいろいろ邪魔くさいことが多い.
なるべくなら公演だけに集中したいが,でもオープニング・パフォーマンスにわざわざ選んでくれたのだから,ありがたい話しでもある.

Bergen_Grieghallen 2

5月25日(水):ベルゲン国際フェスティバル開幕.僕たちの公演会場で,昼間に別のセットアップをして,フェスティバルのオープニングセレモニーが行われた.ノルウェーのプリンス・プリンセスが来るので,劇場やフェス側もなかなか対応が大変そうだった.
ちなみに,同会場で夜にあるダムの公演にもプリンス・プリンセスは来られた.何でもプリンセスが妊娠中とかで,開演前に少しパフォーマンスの音量が取りざたされるが(重低音と爆音),予め大きな音が出ることを伝えて,必要なら耳栓やもっと心配なら無理矢理観ることもないということで,話が収まる.フェスティバル側のスタッフが,王室関係者との間に立ってがんばってくれた.当たり前のことだが,なかなかこうはいかない.長く続いているフェスティバルで,スタッフもちゃんと自分たちの考えを持ってやっているなぁと関心.
結局問題なく,1500席ほぼ満席で無事公演終了.その後盛大なレセプション.僕らにあわせてくれたのか,お寿司と白ワインがでた.
5月26日(木):朝から大雨と強風が吹きまくっていたが,何だかベルゲン市民の半分くらいは,傘も差さずに雨の中を歩いている.合羽も着ずに自転車に乗っている人までいる.彼等にとっては,このくらいの天気は珍しくもないのかも.
そんな天気でも,今晩も公演は盛況.この2日間いつもよりスーツ姿の観客が多くて,どうも年齢層が高い気がする.まあ,拍手も多かったし,喜んでもらえたとは思うので,問題はないんだけれど...
公演後のバラシも問題なく,搬出時に外に出たら,すっきり晴れ上がっていた.既に23時近いのだが,空はまだ明るい.
劇場では,明日からもコンサートやオペラの公演が続くので,夜中にもかかわらず次の公演の仕込みが始まっている.1年に1度のことなので,スタッフもハイテンションで楽しくやっている感じ.
ホテルへの帰り道,ちょっと不思議な白色光の街灯があるなぁと思ってよくよく見たら,高輝度白色LEDの照明だった.ちょっと寒々しい白で,街に似合ってはいるが,よけい寒さがつのるかも.
5月27日(金):今日はオフ,1日だけ時間がある.フィヨルドの観光というのにも強く惹かれたけれど,無精をして何の下調べも手配もしてこなかったので,あきらめて近くの丘に登る.行きはケーブルカー,往復チケットを買ってあったんだけれど,天気も良いし割りと楽そうなので,帰りは徒歩で下りる.街のすぐ近くなのに,素晴らしい景色.美しい森と山道だった.
ベルゲン美術館にも行ったが,そこで奇妙な体験を.
あまり人の行かなさそうな奥の展示室に写真のコレクションが並んでたんだけど,ふと角を曲がるといきなり知人の顔が飛び込んできた.Thomas Struthという写真家が撮った「The Okutsu Family, 1996」という作品で,そこには以前山口でお世話になったOkutsuさんがご家族と写真に収まっていた.
いきなりノルウェーの美術館で,しかもまったく予想だにしていなかったので,とても不思議な感覚だった.世界が狭いのか,美術界が狭いのか...
夕方からUBU,夜はCarte Blancheのパフォーマンスを観る.Carte Blancheは2部構成で2人の振付家の作品.振付や照明は好みだったが,残念ながら音が全然ダメ.(あくまで僕の好みの問題です.)
明日28日は,ベルリンに移動.