Hanoi 3

10月24日
あっという間のハノイ滞在だったが,今日オランダのGroninguen市に向かう.現地のグランドシアターで27日から装置・照明・音響も含めてのリハーサル.パリからフランス人テクニカルチーム,ドイツから映像担当の人も合流する.
実は最初26日からリハと聞いていたので,今日の出発便を押さえたのだが,いつの間にか27日に変わっていた.でもまあ今更変更も出来ないので,僕だけ1日早くGroninguen入りすることに.
このグランドシアターは,不思議な縁で,ダムのダンサーである川口さんが2001年に彼のソロを作ったところでもある.その彼の作品を日本で上演することになり,その時の照明デザインを僕が担当させてもらって,初めてLED照明を使った.そのLED照明が縁で,香港でEaさんと会い今回の仕事になって,今からGrand theatre de Groningenに向かうわけである.
さてさて,パリとハノイとあと実は香港でも動いている人がいて,ちょっとプロダクションのコミュニケーションが悪い感じだが,ついにほとんどのメンバーがオランダに集合する.どうなることか,楽しみだなあ.

Passed 10 years

Stage

Teijiが逝ってから十年.
節目といっても,どういう区切りなんだか,よく分からないけれど,とりあえず今もこうやって,劇場で面白い作品の制作に関わっていられるのは,良いんじゃないかと思う.
ベトナム語とフランス語が飛び交い,時たまちょろっと英語が混じる環境にずっといると,なんだかやけに昔のことを思い出してしまう.脳がちょっと逃避状態になっているのかもしれない.
でも,一緒にやってるフランス人スタッフは,なかなかいい人ばかりで,特に照明を担当しているカルロスは興味深い人物だ.僕はLED照明のみを動かしていて,それ以外は彼がデザインとオペレートをしているが,結構分かるところが多い.
なので,そんなに疎外感があるわけでもないのだが...
まあとにかく,今こうやってオランダの劇場にいて,ダムのではないけれど,新作の立ち上げに関わっているというのは,それなりの十年だと思うし,これからもがんばりたいと思うわけです.
公開リハーサルまで,あと4日.

Groningen

Grand Theatre

ついに着るものがなくなって,朝も早よからコインランドリーへ.朝7時半から開いているということだったのに,8時になってもドアが開かない.
1人で怒りながらホテルへ朝食をとりに戻ると,なんとまだ朝7時.昨日の深夜,オランダの夏が終わったらしい.こんなに寒くて暗くても,まだ夏やったんかい,と突っ込みたくもなるが,まあ1時間儲けたということで,時計を1時間戻して冬時間へ.
ハノイからクアラルンプール経由でアムステルダムまで飛び,そこから列車でGroningenにたどり着くのに,空港での待ち時間も合わせて,ほぼ24時間かかった.
さすがに着いた当日は,日本から送った荷物の確認と劇場をざっと下見するだけで,ダウン.ホテルの横のバーで,人生で一番味無いトンカツ(ウィンナー・シュニッツェルとメニューには書いてあったが,厚さ1センチのスリッパくらいの豚肉に5ミリくらいの衣を付けて,ぱさぱさになるまで揚げた代物)を食べ,ビールを飲んで,夕方5時くらいから翌朝5時まで寝ていた.
劇場は,元映画館とかで,インディペンデントでやんちゃな感じ.アートセンターぽくって面白いが,予算が少ないのか打ち合わせが出来ていないのか,集中して働いてくれるスタッフが少なくて,仕込みも結構行き当たりばったり.でもこれはどうも劇場側のせいではなく,こちら側から明確なプランが出せていないためだと思う.もちろんまだ作っている最中なので,試してみないと分からないことの方が多いが,それにしては動けるスタッフが少なすぎる.舞台・音響・照明,各1人ずつこちらのテクニカルがパリから来ているが,それだけでは当然足りない.ヨーロッパでは照明と舞台を兼ねているスタッフが多いが,此処もそうで,舞台に人手が取られると照明が進まず,また逆もあって,ちょっと大変.
でも何とか仕込み2日目夕方には,舞台の体裁が整う.
今回は初めて全てのLED灯体を,日本でいうボーダーライトのように天井バトンに吊っている.他の照明との関係で,7.5mくらいの高さまで上げなければいけないので,各明かりはずいぶん弱いが,それでも舞台全体を染める分には何とかなっている.ただ色が付くだけでは別になんということもないので,どうやってLEDの特性を生かしていくのか,これからが思案のしどころ.

Paris_Theatre de la ville 1

Ea Sola Poster

2日にパリに移動.
フローニンゲン(現地の人の発音は,「グ」じゃなくて「フ」に聞こえる)の公演は,公開リハーサルということで,100名程度の観客だったけれど,反応はとても良かった.LEDと普通の劇場照明との絡みは,まだまだ手を加えられるが,それでもそんなに悪くないと思う.どうしてもLEDの光量が足らなくて,他の照明が入ると色がぼけたりするが,通常照明には無い波長があって,割りと明るくしてもなんだか変に見える色もある.これからいろいろ試してみるのが楽しみだ.
パリへの移動は,まずバスでアムステルダムへ.スキポール空港のKLMとエアフランスのカウンターは,ほぼ半分くらいe-チケットの端末になっていて,乗客が自分でチェックインする.うまく動くようになったら便利だろうが,まだ乗客も慣れていなくて(そんなに飛行機ばかり乗る人も多くないだろうし),各端末には長い列と説明するスタッフの姿が...結局今のところ,人件費の削減には繋がっていなさそう.
パリCDG空港からは,ダンサーやミュージシャンも含めたみんなでバス移動.これがまた,渋滞に次ぐ渋滞で,市内に着くのに2時間ほどかかる.地下鉄の方が,よっぽど便利.
ホテルは,パリに来たらいつも一度は行く,ベトナム料理屋さんの近く.Place d’Italleから程近いこのあたりは,中華とベトナム料理レストランが無数に広がる地域.さっそくお気に入りのHawai(なぜだか,イタリア広場にあるベトナム料理屋さんの名前がハワイ)に行くが,どうも前ほど活気がない.どうやら,増殖している他の店に押されてきて,あまりクォリティーを保てなくなってきているみたい.時間のある時に,他の店にも行ってみようと思う.
会場のTheatre de la villeは,数多くの興味深い公演を重ねてるだけあって,スタッフもてきぱき動くし,いろいろ考えてアドバイスもしてくれる.(ただし,昼食後はワインのせいか,元気がなくなる)
でも,ユニオンも強くて,仕込み初日の昨晩も,18時になったらほとんどのスタッフがさっさと帰ってしまった.なんだか,働いてはいけないそうな...
まあ,それでも劇場から追い出されないだけましだし,カルロスは数名の照明スタッフとフォーカスを続けていた.この辺の事情は,僕にはよく分からないが,パリでも場所によっていろいろコンディションは違うみたい.いつも僕らが公演しているCreteilは,話しさえ通しておけばずいぶん遅くまで働いてくれるし...
フランスの劇場は,市立だったり国立だったり,公務員の働いているところが多いと思うんだけど,それにしては全体的に日本よりずいぶんましだと思う.でも,昨日聞いた話だと,パリ市内の有名な劇場でも,時間が来たらいきなり電源のスイッチを切られるところもあるのだそうな.何処も,スタッフ次第ということかな.
それで今日は仕込み2日目.明後日6日の夜に,最終ドレスリハーサルの予定.
7日からは,いよいよ4日間の本公演.

Paris_Theatre de la ville 2

昨日、Theatre de la villeでの初日が開けた.
日本を発ってから25日,ハノイも含めれば長かったような,あっという間だったような.1000人以上入る客席は満席,木曜の千秋楽までチケットは完売.5年ぶりの新作,多くの人が待っていたのでしょう.
此処の劇場は作りが変わっていて,いわゆるバルコニー(2階席や3階席)が無い.客席最前列から,急なスロープでブワァーと客席が迫り上がっている.なので,一番後ろに設けてある,照明のオペレーションテーブルまで上がるのは,毎回大変.
今回,一番厳しそうだったのは,音響担当のマークで,僕と同じくEaさんと組むのは初めてらしく,なかなか彼女の望む音が作れない.しかも基本は生演奏のドラム(ベトナムの伝統楽器の太鼓)で,端から見ていてもマイク等の調節が難しそう.おまけに,基本的にマークは音響屋さんと言うよりも,彼自身コンポーザーとしてやっているみたいで,ちょっと求められている資質とずれている気がする.
この作品のコンポーザーとしては,もう長いことEaさんと組んでいるSon君というベトナム人音楽家がいて,曲は全てベトナムで作られているし...マーク,とってもいいヤツなんだけどなぁ.
でも,最終的には何とか調整し,本番はうまく行っているところが多かった.僕は,もう少し低音が効いている方が好きだけれど.
照明も,カルロスとの二人三脚は,うまく行っている.ただちょっとまだキュー数が多いところがあって,変化がせわしないので,それをどう削るかが問題.
どうしても,シーンごとに分けて照明を作っていくと,その中でも変化を付けたくなるし,そのあたりはほとんどEaさんが練習中に次々と注文を付けてくるのだけれど,あとで繋いでみてみるとキューの割りが細かすぎることがある.でも彼女の希望なので,そうそう勝手に削るわけにも行かず,また僕らも,まだ操作に必死なところもあって,何となくおかしかったところは覚えているんだけど,何処をどうするというところまで整理できていない段階.
それでも,昨日の公演後は,お客さんの反応も上々.客席最後尾にいる僕らにも,十分舞台上の熱気は伝わってきたし,これからが楽しみな作品には仕上がってきたと思う.

Paris 3

パリでの公演最終日.
ダムのコンポーザーでもある池田君が,ちょうどパリに来ていて再会.
明日から劇場のネットが使えなくなるので,メールチェックも難しい状況になる.何せホテルの部屋の電話は壁にくっついていて,線を繋ぎたくてもどうしようもない.
明日は,ポンピドゥであるEmio Grecoのパフォーマンスを観る予定.
明後日は,バスティーユ・オペラ座である「トリスタンとイゾルテ」を観たいんだけれど,どうしてもチケットが手に入らない.映像担当がBill Violaで,5時間の長尺もの.去年パリで初演されて,とても評判がよかったらしい.とりあえず,劇場前に行ってみようかと思っている.(フランスでは,のみ行為が禁止されていて,チケット表記の金額以上で切符を転売してはいけないらしい.それで余ったチケットを持っている人が,定価で売ってくれることがあるとのこと.)
15日はパリ近郊のCombs la villeで,17日はAngoulemeで公演.それで今回のツアーは終了.
さっそく来年の予定が入ってきているが,他とのスケジュール調整が大変になりそう.僕としては,どれもちゃんと回りたいけれど,どうなるかなぁ.
とにかく,これから最終公演.さあ,がんばろっと.

Paris 4

ポンピドゥの近くに,ナイスなネットカフェを発見.
なんと,IPを設定して,自分のコンピューターをネットに繋がせてくれる.何処でもこうだと良いのに.
毎日pb15を持ってシャトレまで出るのはちょっと億劫だけれど,でもデータのやりとりの心配や,いちいち日本語フォントをダウンロードしてインストールする手間を考えると,こっちの方が楽.どうせこの辺までは,毎日出てくるし.
昨日のEmio Grecoは,勅使河原三郎の影響からはぜんぜん脱していなくって,まるまるコピーかと思うところもあったけれど,まだまだガンガン身体が動くので,ダンスはとても良かった.照明も,舞台中に変な塊として吊られていて,それもまあまあ.
でも,これは僕が悪いのだが,どうも現代音楽を聴くと,眠くなるという癖があって,直球勝負な生音に,瞼が重くなる.センサーを使って,何かインタラクティブに音を出していたみたいだけど,ステージに目と耳がちゃんと付いているプロの演奏家が何人もいて,おまけに指揮者までいる中で踊っているわけで,何も機械でセンシングしなくったって,ちゃんとミュージシャンがフォーローしてくれるだろうと思うと,ご大層なシステムを客席奥に組んでまで,無理矢理インタラクティブに何を動かしているのか,あまり意味が分からなかった.
僕としては,もっとノイズとかでEmio Grecoがガンガン踊っているのが,見たかったなぁ.それが例え,コピーだとしても.

Bastille, Combs la ville, Angouleme

バスティーユ・オペラの「トリスタンとイゾルテ」は,凄かった.舞台上にあるのは,装置としてはベットのような四角い台だけ.後は奥を全面被っている黒いスクリーンに映される,Bill Violaの映像のみ.(黒いスクリーンと書いたが,本番では黒の幕が上下左右に開いて,その裏に白いスクリーンがあったのかもしれない.映像のチェック時は確かに黒の上に投射していたが,本番中は地の色が黒なのか白なのか,眩しくてよく分からなかった.)
横型の16(横):9(縦)と4(横):3(縦),それに縦型の16(縦):9(横)の映像を使い分けていて,映写室を覗いたらBARCOが2台あったのだけれど,縦型と横型の映像用に使い分けているのか,それとも1台は予備機で,あのプロジェクターが内蔵シャッターでどうとでも映像を切れるのか,どちらか分からなかった.
あと,たぶんアクティングエリアの床あての照明も,天井に吊ったビデオプロジェクターのようで,綺麗に4:3の大きさでエリアが切られていて,時々映像にあわせて色が変わっていた.もちろん,フロントからのフォローとか,幾つか通常照明も使ってはいたけれど...
それで,間の休憩2回を抜いても,4時間あまりたっぷりBill Violaの映像を堪能できる.端的に言えば,大きなスクリーンに無茶明るいプロジェクターで投影したビデオインスタレーションに,豪華なフルオーケストラと,上手なオペラ歌手がくっついているような物だった.
そしてオフが終わったら,怒濤の地方巡業で,パリから車で1時間半程度の町 Combs la villeへ,朝早くから出かけてセットアップ,夜中にパリに戻って翌朝またその町へ.そして公演してバラして,またパリに戻って,翌朝早くにモンパルナス駅に向かい,TGVで2時間程度のボルドーの町 Angoulemeに直行.10時過ぎに着いてセットアップ.で,翌日公演とバラシ,というスケジュール.
ところが,何とTGVが霧のため途中で止まって,1時間ほど動かない.何だかなぁ,日本を発つ時にも同じようなことが...結局,Angoulemeの劇場に着いたのは,昼を少しまわった頃.この3月にダムの公演できた時も,香港から一度日本経由で,ふらふらになりながら,他のメンバーより半日遅れで,この劇場に入ったんだった.どうして,こういうことに...
でも,列車の中から電話で指示を出していたこともあって,それほど深刻な遅れはなく,あと数時間後には今ツアー最終公演が始まる.
この劇場は,照明室からネットに繋がるので,とりあえずこのページも更新.
前にも書いたかもしれないが,古い建物の内部だけを劇場にリノベーションしたところで,非常にうまくできている.
写真は,劇場上層階側面に,新しく造られた通路.古い建物だし,内部の壁をぶち抜いて通路を一本通すより,この方が良いかも.眺めも抜群.