7月29日:ポかリン記憶舎『煙の行方』@須佐命舎/京都
僕の知る限り,関西でもっとも演劇やダンスを観ていて,かつその感想などをウェブで公開している方のお勧め.
役者(全員女性)がすべて浴衣で,西陣の独特な雰囲気の残った一角での公演 from 東京.
僕の観た回は,午後のまだ日が高い時刻の公演で,会場の舞台奥が西向きの全面窓というシチュエーション.雲が多いものの,時折日差しも強いという天気であり,舞台奥の窓の外は木々の茂る庭で,時折雲に日差しが陰るものの,公演時間の多くは,舞台床に木洩れ日が影を揺らしている.その移り変わりが絶妙.
もちろん,人意で外光と影がコントロールされているわけではないのだが,良くできた脚本と演出(ツボを得た音響効果も含む)で,まるで移り変わる日差しも,芝居に組み込まれているような気にさえなる.
たぶん夜の回も,それはそれで面白かっただろうと思う.昼の回に,うまく組み込まれていた補助光といい,劇場の便利さがない場所でも,十分面白いものを見せてくれそうな,底力を感じる公演でした.
8月1日:アダンとローズ・イン・タイドランドの映画2本@みなみ会館
この日は,ファーストディということで,どの上演も性別年齢問わず1,000円均一.
数年ぶりに,映画館で映画を見る.
ついつい新作を飛行機内で見る生活が続いていて,なかなか映画館へ足を運ばない.なるべく頭をあまり使わないようなハリウッド映画を選んで機内では見て,自分が見るべきと思う作品はちゃんと映画館へ行こうと思うのだが,なかなかそうはいかない.しかも,飛行機で見る映画は,記憶がぶつ切りで,最初と最後の数十分だけ知っているような作品が,結構ある.これは最低...
で,固い決意でMacを落としてみなみ会館へ.
「アダン」は,田中一村の半生を映画化したもの.
一村が評価された頃に,その熱狂を知る身としては,かなり思い入れがあって観に行ったわけだ.
しかし...この監督にも主役の一村を演じた役者にも,どうにも違和感を覚えっぱなし...脇を固める古手川祐子や村田雄治にはなんの違和感もないのに,ひとたび一村役の役者が喋り始めると,映画の世界への没入感が冷めていく.
もし,この役者がわざとこういう演技をしているのなら,それを認めた監督が悪い.監督が,そういう演技を付けたのなら,よりいっそう監督が悪い.もしこの役者が,そういう台詞回ししか出来ない人なら,それを選んだ監督が悪い.
とにかく,一村役の役者が喋り始めると冷める.そう思い出すと,動きまで,彼だけ酷いオーバーアクションに見えてくる.何だか一村を,普通の人ではないと強調したいあまり,世界で一匹しかいない珍獣のように扱っているように見えてくる.
確かに一村は,そういう人だったのかも知れないが,映画の表現として,それを強調する必要があるんだろうか?
この監督は,僕たちの記憶に名を残す個人の半生を映画化する仕事を続けているとの事だが,思い入れのある人に関する作品ほど,観ない方がいいかな,と思ってしまう作品でした.手っ取り早く,主人公の経歴を知るには,いいかも知れないけどね.
ローズ・イン・タイドランド by テリー・ギリアムは,最高!
日本にも,天使のような純真さと残虐性を合わせ持つ少女の肖像(作家自身の弁)を,自画像だといって描くイラストレーター,もとい,現代美術作家さんがいらっしゃるが,その数千倍数万倍は凄い,絶対自分ではアーティストだなんて言わないだろうギリアムの傑作 by 主人公のジェライザ=ローズを演じるはカナダのJodelle Ferland.
病めるアメリカを皮肉っていると思って見れば,幾らでもそういう点は散見できるが,そんなこと途中から吹き飛んでしまうような面白さである.最初の方で,父ちゃんの「ショート・バケーション」のために,せっせとクスリの準備をするローズのかいがいしさに,思わず笑い出して期待感が高まるが,そんな理屈臭い先読みを軽々と超えるように,ローズの演技が微妙なバランスで,なんとも居心地が良いような悪いような,不思議な世界を紡ぎ出していく.
何か体調によっては,こんなに入れ込めないかも知れないな,と思わせるキワモノ感は強いけれど,とにかく,面白うございました.