When I live in the theater

劇場に棲むと,公演ツアー中の場合,ほとんどそこから一歩も出ないことが判明.
いままで,公演会場と一番近かったのは,ストックホルムでの公演のホテルで,劇場の真横,つまり隣だった.2回公演に喚んでもらったことがあるが,2回とも同じホテル,一度は真冬でそれこそ凍り付くような寒さだったので,仕事場が住処と近いのは,とてもありがたかった.なにせ,レストランに食事に行く方が,遠くて辛い.
しかし今回は,その記録をはるかに上回り,滞在先は劇場の中.上手奥の階段を上がり,舞台袖上を奥に進んでドアを開けると,楽屋兼食堂.そして,その周りに寝室と事務仕事のできる部屋がある.しかも,街の賑やかな場所までは,タクシーを呼んで数分かかる.
こうなると,本当に何処にも出なくなる.まあ舞台が少々やっかいな構造で,仕込みに時間がかかり,しかも照明機材のトラブルなんかもあって,いつもより時間に追い立てられたこともあるが...レストランまで隣り棟にあるので,後半の2日間は,ほとんど外に出なかった.朝食を摂りに,プラプラ歩いて角を曲がったすぐの処にある,無愛想なねーちゃんがキビシイ食堂に行ったっきり,それ以外は同じ敷地の中で過ごした.
そして,20日の木曜日に公演.客席は,満員.こんなに人が来るなら,もう1日公演させてくれれば楽なのに,と少々愚痴りながらも,公演後はさっさとバラシ.
0時にはバラシ・パッキング・積み込みも終わり,わざわざ開けて待っていてくれたレストランで乾杯.
午前2時には就寝し,4時に起床.パリで別の仕事を任せてもらっているので,ダムから離れて空港へ向かう.
4時半にタクシーを予約していたのだが,本当に来るか少々心配していた.周りに人気のない場所だし,来なかったらすごく大変そうだったので.
しかし!4時15分頃に,門を開けてトランクを転がしながら出て行くと,とたんに少し先の角に止まっていた車がヘッドランプを灯す.さっすがドイツ系,頑固で理屈っぽすぎるところもあるけれど,しっかりしてます.4時過ぎには向かえに来ていて,出てくるのを待っていてくれた模様.
おかげさまで,余裕を持ってチェックイン.Linz-Frankfurt-Parisと飛んで,無事にパリ到着.

Book 2006 04 23

旅に,本は欠かせない.
去年Eaさんの公演でパリにいた時には,野村進さんの「脳が知りたい!」がすごく面白かったけれど,今回また良い本に出会った.それも2冊.この頃は,こういう出会いは滅多にない.たぶん,僕の読書量が激減しているせいだと思うが...
まずは,Ken Grimwoodの「REPLAY」.
SFである.サイエンス・フィクションというと,荒唐無稽で何でもありなような気もするが,実はそれなりにきちんとつじつまを合わせておかないと,たちまち興ざめして読む気を失う.昔は,その説明がなかなかうまくできずに大変だったけれど,いまならシミュレーション・ゲームを例に取れば分かりやすいか.幾ら起こりえないような.つまり今まで想定されなかったようなことが起こったとしても,そこにはある種のルールがあって,それが貫かれていないと現実感は保てないし,そうなるとたちまち読み手はついてこなくなる.
その点,この「REPLAY」は,むちゃくちゃな設定なのに,いつの間にか本の世界のルールを納得し,しかも最初は(僕の)予想の範疇内だった展開をはるかに上回り,しかも最後まで落胆せずに読めた.関空の書店で見かけた時に,「本の雑誌(か何か)の,この数十年回のベストスリー」というようなポップに惹かれて買ったのだけど,それだけのことはありました.今までにもたくさんの人を楽しませてきたというのを,十分納得しました.面白かったです.
2冊目は,和田伸一郎「メディアと倫理」.
画面は慈悲なき世界を救済できるか,というサブタイトルが付いている.
少々言い切りすぎというか,断定的な見方が鼻につく部分もあるけれど,それを我慢して読み進んでよかった.僕のように哲学にあまり詳しくない読者にまで分かるように,噛んで含めるように,ビリリオからハイデッガーまで多くの引用を交えて,少々付け過ぎなくらい傍点を付けて,今の危機を解き明かしてくれている.
日頃どっぷりネットに浸かりながら,それでも何とか世界の状況にコミットしていきたいと思ってきたんだけど,その難しさを改めて理解しました.でもね,「映画」(もちろん全ての映画がではない)だけが,観る者を救済するというのは,違うと思うぞ.断じて,[だけが]ということはない.
もっとも,著者も言葉としては「映画だけが」といっているわけではなく,読後感としてそんな感じを受けるだけで,逆に「そんな断定はしていません」と,突っ込まれそうだけど...
でもとにかく,インターネットという超巨大メディアが登場した以降の現実感を,とても分かりやすくしかも危機感を持って提示してくれている.僕は,いろいろ参考になりました.

G4 crash

パリの日本文化会館での、展覧会会場照明の仕事が無事に完了し展示が始まったので、そのことでも書こうかと思っていた矢先に、とうとう長年使ってきたG4が動かなくなった。
なので、一週間くらいはいろいろなことが滞ると思います。
とりあえずメールなんかは、今使っている照明制御用のWin機でチェックできるけれど、必要なデータはすべてG4のHDの中。
まあ、まずは日本に帰ります。

とりあえず、展覧会の仕込みの写真だけ貼っておきます。ちなみに僕は、出品作家ではなくて、会場の照明デザインを担当しています。

Difficulty

帰国してはやくも10日、怒濤のような日々が過ぎる。
パリ最終日の夜に、4年ほど連れ添ってきたmacpbG4がクラッシュ。頭を抱えながら、空港へ向かい、チェックインすると荷物が少々重量超過。
ヨーロッパ航路は20キロまでなのだなあ。
このツアーでトランクを買い替えるまで、機内持ち込みできるものをメインに使っていたので、ちゃんと知らなかった。今回は、パソコン2枚とかなりの周辺機器を持ち歩く必要があったので、さすがに前のものでは収まらず、新たに大きいものを買ったのだけれど、そのせいで重量オーバー。仕方がないので、その分をマイレージで支払うために発券カウンターに行き、その後再度チェックインカウンターに戻ると、対応してくれたおねーさんが大げさに微笑みながら、オーバーブッキングなので、ビジネス・クラスに移っていただきます、という。
なんだか、飴とムチを使い分けられている気分、行きほど無条件には嬉しくない。
しかしさすがにビジネスはゆっくりできて、さほど疲れもせずに帰郷。
娘は、えらいことおしゃまさんになっている。この時期の人間の成長は、かなり目覚ましいものがある。
それはさておき、早速、価格.comを使って、MacBookProのリサーチ。ツアー中に、BootCampの事が話題にあがっていて、かなり気になっていた。人によっては、MACでWINが立ち上がって何がおもろいねん、という人もいるだろうが、僕としてはMac機でLiddellが立ち上がって、DMX出力ができて照明のコントロールが可能なら、1台のコンピューターで全てをカバーできる。
しかし、Appleの自信はすごいなぁ。一見、Windowsに媚びているようなBootCampだけれど、OSの使い勝手、という同じ土俵で比べられるなら、絶対MAC OSの方が優れている、という自負があってこそのものだと思う。
そして、とにもかくにもMacBookPro購入。
関空に着いたのが27日木曜日の朝で、日本はまさにゴールデン・ウィーク直前。昔から、これには泣かされてきた。。。勤め人ではないので、発注も物流も滞るこの時期は、毎年何かと泣かされる。今回も、とにかく29日までに実機が届かないと、かなりヤバい。次回ツアー出発は、5月9日火曜日。
ダントツに安いところを見つけて、MacBookProをオーダー、無事に29日土曜に到着。HDケースも届いて、前機のハードディスクを入れて新機に繋いでみると、ちゃんと認識される。とにかくデータは無事だったわけで、これでまあ何とかなると一息ついて、新機にすべて移す。
しかし、その過程でどうも、新機のスーパードライブがおかしい。OSのインストールCDを認識しない。
何だかね、苦あれば楽ありというよりも、誰かの掌の上で転がされているような気がする。おちょくられているというかイヂラレテルというか。。。
結局、初期不良で修理ということになって、新機を5月1日月曜に回収に来ることに。。。
それでもまあCD/DVDドライブがおかしいだけ、他の作業には支障はない。とにかく急いで、次のツアーの準備。
ところが、本体と同時期に別発注で頼んだ増設メモリが、全然届かない。元々のメモリは512MB。OS X上で色々動かすには、あまりにも少ない。ああ、ここでもゴールデン・ウィークの余波が。。。
という経過をたどって、昨日5月5日にはようやく、メモリと共にBootCamp用に買ったWinXPも到着。
今は、見事にMAC本体上で、OS XとWindowsXPが立ち上がる。
ようやくここまでたどり着いた。

A lighting design for the exhibition

不思議な縁で、展覧会の会場照明デザインをさせてもらった。
場所は、パリの日本文化会館。その展示ホールで6月24日まで開催されている、「L’air de rien – nouvelles pistes pour l’art contemporain japonais」という日本の現代美術展の照明を担当。
以下に、パリ日本文化会館のサイトにある紹介文をコピーすると、
『未来への回路〜日本の新世代アーティスト』展
1990年代半ば以降に注目を集めた11人の若手注目アーティスト(福井篤、廣瀬智央、明和電機、村田朋泰、中村哲也、佐内正史、齋木克裕、須田悦弘、束芋、高橋信行、横溝美由紀)による絵画、彫刻、写真、ビデオ、インスタレーションといった多用な表現を、特定の傾向やスタイルに焦点をあてるのではなく、モノづくりへの丹念な取り組みという視点から紹介する。なお、本展覧会は国際交流基金(ジャパンファウンデーション)主催により会館のみならず欧州各地において巡回展示される。
http://www.jpf.go.jp/mcjp/feat/index.html
というもの。
今回は、先に会場デザインの方がいらっしゃって、その方と二人三脚のような形で作業を進めた。
楽しかったし、それなりの形にできたとも思うのだけど、無事展覧会がオープンした矢先に、前にも書いたようにMacG4がクラッシュ。そのせいで、紹介がずいぶん遅れてしまった。
会場の構成が、大胆に太陽光を入れているエリアもあり、そこでは人工の照明は手も足も出ない。ならせめてもと、日が沈んでから真夜中近くまで、逆にその窓を利用して、会場内の様子が、揺れ動く光と変わり続ける色で、外の道から見えるようにプログラムしてみた。
写真は、その様子を外から撮ったもの。
実はすぐ横に、21世紀になってからずっと、ギンギンにライトアップされているエッフェル塔があって、その迫力には悔しいかな及ばないが、それなりに目立ってます。
展覧会の内容も、多岐にわたる作品が集められていて、なかなかいいセレクションだと思う。それに合わせて、照明も変化を付けてみたので、もし機会があれば見てみてください。

Glasgow

5月12日.
今日・明日と,スコットランドのGlasgowで,ダムのVoyage公演.会場は,TRAMWAY.
遥か昔,もう15年も前に,pHの公演で訪れた事がある.使われなくなったトラムの車庫を使ったアートセンターで,地域社会とも密接に繋がっている施設という感じ.僕らが仕込みをしている間も,劇場以外のところは稼働していて,カフェや庭に,乳幼児とその保護者や,老人の姿も多い.聞くところによると,この街は一時すごく荒れていて,うかうか外を歩いてもいられない時期があったとかで,そういう状況からの避難所としての機能も,このアートセンターは持っているのかもしれない.
でも,今は,別段それほど危なそうな感じもしないけれど...(あまり町中に行っていないので,断言はできない.)
元々車庫(とたぶん電車のメンテナンスやひょっとしたら作ってもいたのかも...)だっただけあって,劇場の床は丈夫なコンクリートで,最終的にはそこに木製パネルを敷き詰めて舞台にする.また天井も,キャットウォークは何本か通っているけれど,バトンは昇降しない.
こういう,リノベーションした施設にはよくある不自由さだけれど,それをカバーするために写真のような作業車が導入されている.それがむちゃくちゃ便利,というほどではないのだけれど,古い建物を全部ぶっ壊して建て替えることを考えれば,ほんのわずかな投資で,それなりに十分な作業性を確保している.
15年前は,それこそまだぼろぼろの建物で,そこをコツコツ手作業で直しながら場所も組織も作り上げている感じだったし,それがずいぶんと綺麗になってきれいすぎるほどの施設になった今も,基本的な感覚というか,自分たちでこの場所を丸ごと作って動かしているんだというような,自立した独立心というようなものを感じる場所です.

Paris again

打ち合わせと仕事の引き継ぎのため,再びパリへ.
この前と同じ,ネット環境の快適なホテルに泊まるが,4日間の滞在のうちの後半2日は,何だか予約がいっぱいで部屋がとれず,ホテルを代わることに.ホテルぐらい幾らでもあるだろうと高を括っていたら,何があるのかこの周辺のホテルはどこもかしこもいっぱい.ネットで探しても空きは見つからず,少々焦る.
結局,パリ在住の友人が,懇意のホテルを紹介してくれて,何とか部屋を確保.ありがたい.
打ち合わせの合間に,来週から始まるEaさんの公演ツアーの,照明引き継ぎ作業.ドイツでの公演がダムの公演と見事に重なり,僕は参加できない.なので,仕方なく,僕のやっていたLEDパートを,Carlosにお願いすることに.
ドイツ以降の,シンガポールとベトナム公演には,また僕が復帰する予定.
何とか,この2日で,すべてのきっかけを引き継がなくてはいけない.まあ,何とかなるかな.

EURO CUP

5月16日17日と,何でこんなにどこもホテルがとれないんだろうと思っていたら,サッカー・ユーロカップの決勝戦だかなんだかが,パリで開催されていた.マドリッドとバルセロナの対戦.スペインでやれ!そんなのスペインで!
おかげでパリは,どこに行ってもむさいおっさんが群れをなして大声で歌いわめき騒ぎ,酔っぱらい,地下鉄のドア越しに罵り合い,暑苦しいことこの上ない.ホテルは,星付きからバックパッカー御用達まで何処も満員で,知らずにパリにたどり着いた旅人たちは,ねぐらを探してうろうろしている.
僕は,前述の友人が紹介してくれた,ピガール辺りの小さな宿で部屋を確保,おかげさまで快適に過ごすことが出来た.
この宿,パリにしてはすごく安いが,部屋はきれい.トイレは廊下だがシャワーは部屋に付いている,という自慢気な宿の親父の言通り,確かに写真のようにシャワー箱が部屋に付属.箱としか言いようのないようなものだが,これでも立派に温水は出るし,おもしろがって茶化して紹介はするが,宿としてもかなり良いところです.特に,周りの界隈が,コジャレなブティックからSEX SHOP,高級食材から中華のテイクアウトまで,何でも揃ってしかもカフェなどは夜中でも賑わいを見せている.とても楽しい地区でした.
Eaさんの公演のための照明引き継ぎは,Carlosと旧知のインディペンデント・ディレクター氏の自宅で作業.はじめは劇場の片隅でも借りようとしていたのだが,色々あって個人の自宅をお借りすることに.
この家が,またすごく居心地が良い.独り身だという,50過ぎくらいに見えるディレクター氏が,自分の居心地が良いように造っていった自宅.もうたぶん一生行くことはないだろうし,とにかく車で連れて行かれたパリの東の外れで,未だにどこだかわからない.でもとても良い家だったので,とりあえず写真を1枚.
当のディレクター氏には,初日に笑って握手をした後はついに会えず,結局名前もわからない.
17日夜には,パリ郊外でやっていた,Preljocajの1989年の作品「Noces」の再演を観に行く.いかにもヌーベル・ダンスというかヌーベル・バレエ.良くできた振り付けで,なかなかよかったです.椅子というかベンチ使ってました.これはヌーベル・ダンスのお約束なのかな?
そして,18日早朝に友人を訪ねてウィーンへ向かう.ここからは短いながらも休暇モード.3日間は,打ち合わせも何もなし.早朝の便だったので,朝6時前にパリ北駅へ.駅に入ると,そこはさながら野戦病院のような状況.
ホームレスならぬホテルレスの人たちが,若者のみならずいい歳をしたおっさんまで,駅の床でごろ寝.その横を早朝出勤の人たちが平然と歩いていたりして,異様な風景.でも,パリではよくあることなのか,寝ている方も通り過ぎる方も平然としている.僕も,これが昨日大騒ぎしていた群れかと思うと,あきれるばかり.こんなにまでして応援に駆けつけるその情熱の大きさよ...
そして,無事ウィーンの友人宅に着く.