9月14日15日:
Budapest-Munich-Lisbonと乗り継いで,ポルトガルの南のFaroに到着.
この町に拠点を置く,no Fundo do Fundo.がオーガナイズするフェスティバルに参加.毎年一カ国に焦点を当てて,そこから多くのカンパニーを喚ぶという形のフェスを続けていて,今年は日本年.7つのカンパニーが日本からやって来る.
http://nofundodofundo.com.sapo.pt
ここはFaroの街中にCAPaというビルを持っていて,3階建ての各層にステージ件稽古場と,それを取り巻くようにキッチン兼オフィスや,レジデンス・ルームがある.基本的に,観客を入れる舞台は1階と決めているようだけど,昨日・今日のプログラムでは,1階で大阪から来たj.a.m. Dance Theatreの公演「Carlo x Carlo」を,3階でMonochrome Circusの「水の家」を続けて観れるようになっている.
ただし,古いビルをリノベしているので,各所にかなり無理があり,例えば2.3階から外へ出るには,1階の舞台中を横切るしかない.つまり,1階での公演後は,お客さんは舞台を突っ切って奥の狭い階段を3階まで上がり,次の公演を観る.面白い趣向ではあるけれど,まあ日本だと防災上絶対許されないような状況.
あと,水場がレジデンスルームのある3階にはいっさい無く,2階の共同シャワートイレを使う他ないとか,部屋によっては小さな窓しかないとか,アジアのゲストハウス並の環境なパートもあるが,しかし日本ではなかなか実現できないような素晴らしい施設でもある.
とにかく,宿泊予算を気にせず招待できるわけだし,こちらとしては部屋を出たら即稽古場/制作室,オフィスにはLANもあるし,いちおう日常生活は出来る.なんといっても,公演場所も同じなわけだから,時間を気にせず仕込める.
規模も環境もまったく違うが,80年代の終わりに京都の無門館で,ひと月かけてダムのクリエーションをしていた頃を思い出した.
前にも書いたが,Refined ColorsのLisbon公演がキャンセルされたので,僕は21日から入るLoule(ここから電車で十数分らしい)での公演まで,しばし休憩.「水の家」チームはFaro-Lisbonの2ヶ所での公演の後にLouleで合流.
ポルトガルは,それほど暑くもなく,日が沈むともうかなり寒いけれど,日中は爽やかな素晴らしい気候.魚も旨いし,物価も前に来た時よりはずいぶん上がっているように感じるけれど,でもまだそれほど高くない.せっかくの機会なので,ぼちぼち仕事を片づけつつ,読書に励もうかと思う.
写真は,CAPaの2階・3階とキッチン兼オフィス.1階は,j.a.m. さんのセットが飾ってあるので,ちょっと写真は遠慮します.それと,屋上から海側を見た風景.遠くに小さく海が見えるけれど,実は歩いても15分くらい.
Armona
9月19日・20日:
Faroで出来る仕事も,だいたい一段落したので,近くの島に一泊で遊びに出かける.他のメンバーはみんなLisbonかその辺りにいるようで,久々の一人旅である.といっても,Armonaというその島は,Faroから電車で15分の隣町でフェリーに乗り換え,そのから20分程度の船旅.ただ,電車は1時間に1本,フェリーに至っては1日4便と,なかなか近くて遠い.
前日18日の午後に,2時間ほどの干潟ツアーに参加し,その行程で訪れた沖の無人島がかなり良かった.出来れば島で一晩過ごしたいと思ったのだが,宿はおろかキャンプサイトもなく,島に留まる事は出来ないという.それでまああきらめたんだけど,その近くの別の島であるArmonaにはバンガローがあると聞き,とりあえず出かけてみる事にした.
島といっても干潟の延長で,潮が満ちても沈まない土地が外海に向かって出来たという風情.そこに漁師さんやら,行ってみて分かったのだが,かなりの数のリタイア組み(年配のカップル)が,ゆったりとかわいい小さな家を建てて住んでいる.僕は実は沖縄の竹富島のファンだが,勝手にArmonaをポルトガルの竹富島と呼ぶ事にした.
島には背骨のように細いメインストリートが走り,その両脇に家が並び,港からまっすぐ20分も歩くと反対の端には綺麗なビーチが広がっている.
もう夏も終わりというからか,ビーチには人少々,鳥たくさん,犬1匹という状態で,爽快な事この上ない.水はかなり冷たかったが,まだ日差しは熱くて,泳げないことはない.
バンガローは,ちゃちい割には結構な値段だったが,小屋の裏にはまた違う浜が広がり,夕方の引き潮時には,島のジイサンたちが潮干狩りをしている.
数件ある食堂の一つで食べた,アサリのチャウダーも旨かったし,夜中に真っ暗なビーチで見上げた星空も凄かった.あんなにはっきり天の川が見えたのは,ここ以外ではオーストラリアの砂漠かヒマラヤのラダックか...
興に乗って早起きして,朝日を見に行くと,漁師さんが岸近くで腰まで水に浸かって漁をしていた.どうも,砂を掻き分けて貝を採っているらしい,しかしあの水の冷たさに短パン素足とは...頭の下がる風景でした.
そのうちいつかまた,数週間家でも借りて夏休みしてみたいもんだ.
写真は,島のメインストリートとビーチ,点々と並ぶかわいい家というかその前庭と,バンガローの裏手の浜の夕暮れ,そして夜中の村中と朝の海.
Loule
9月21日22日23日:
Faroから十数キロ,車で20分程度のところにあるLouleという町に移動.ここにあるCINE TEATRO LOULETANOで23日一晩のみの公演.「水の家」チームはLisbonで公演しているが,僕はこの10日間,このLoule公演のためにPortugalに滞在していたといえる.
Faroに近いものの,ホテルもLouleに用意されて,FaroのCAPaとはさようなら.またいつか,滞在制作などできれば良いなぁ.僕はかなりPortugalの水があっているようだ.
ところが,そんな気持ちとは裏腹に,Louleの劇場はかなり厳しい.古くてかわいいところなのだが,かなり高い天井のスノコからは,たった3本のバトンしか下がっていない.奥行きも間口も10メートルはある舞台の上にたった3本,それだけ.一番前のプロセニアムに下がっている一文字は,プロセからワイアーで直に吊り下げてある.加えて,CINE TEATROの名の通り,間口いっぱいの稼働スクリーンがあり,それを舞台奥一杯まで押しやっても,ホリゾント幕の下からスクリーン枠の足が飛び出る.スノコには危険だから誰も上がってはならぬと言われるし,2層あるバルコニーの上層には,危ないからお客を入れられないという.(落ちるのか?バルコニーごと...)
それでも,見た目はちゃんと劇場なので,かえって至らないところが目立って仕方がない.客席からはバトンが何本あるかなんて見えないから,なぜホリゾント幕の上場も照明バトンも丸見えなのか,よくわからない.
今までにも厳しい場所はいくつもあったけれど,それはもう空間そのものがいかにも大変なところで,あまりちぐはぐな感じはなかった.かえって,そういうところでLEDを同期バリバリで動かす事で,作品がパワーアップした感があって得をしていたのだが,どうも今回は困ったもんである.
音響も,追加でサブ・ウーハーをLisbonから持ってきてもらったりしてがんばっているのだが,客席の天井が高くその全体積の割には機材不足で,いまいち迫力に欠ける.ここでも立派な見栄えというか構造が仇になっているわけだ.
シンプル・ミニマルな白い箱というセットは,最終的にはそれなりにかっちりしたが,その上部や周りの諸々がどうもワサワサでいけない.
何だかね,こんなこともあるわけだ.
もちろん,Refined Colorsだから,ここでもそれなりに公演できるという自信はあるが,想定外の場所だといえるなあ.
Bucharest
9月24日25日:
24日は今回最大のヤマ場,FaroからルーマニアのBucharestへの移動,ツアーメンバー8人+公演機材一式150キロ(トランク5個),Faro-Lisbon-Frankfurt-Bucharestだった.
まずは,空港で通関.これはA.T.A.Carnetという輸送用の通関書類を作ってあるので,難なくパス.Carnetは簡単に言えば,いったんその国にこれこれの機材を持って入るけれど,中で売っぱらう事無く全部持って帰ります,という保証証明書.
次にチェックイン,8人で個人の荷物も含めて12個を預ける.ヨーロッパは個人の手荷物預かり上限が20キロなので,160キロまでならセーフだが,もちろんそれで済むはずが無い.だって機材の重量が既に150キロある.カウンターのおねーさんは,顔色変えずに淡々と荷物にラベルを貼って送っていくので,一瞬無問題なのか?と気持ちが踊るが,そのおねーさんはそのまま表情を変える事なくサラッと「はい,合計で286キロなので126キロオーバー分の超過料金を払ってください.」といった.一瞬その場で気絶でもして見せようかと思ったが,相手はさらに上手で手慣れているというか,続けて「特別に一人5キロまでサービスしてあげるから8人で200キロまでは無料,86キロ分の超過でいいわ.」と続ける.
それですぱっと交渉切断,まけてと言い出す前に40キロまけられて,今更後5キロずつまけろとか言い出しにくい.もともと,100キロオーバーは覚悟の上だった事もあり,指示通り料金支払いのカウンターへ.これが間違い.というのは,超過料金の設定が,日本で調べた額より高かった.各航空会社によって差はあるが,料金はたいていそのルートのエコノミークラスもしくはルートによってはファーストクラス(これで全然金額が違うが)の正規料金の数パーセントが,1キロごとの超過に対して課せられる.これが,思っていた金額よりかなり高かった...
この時点でかなりへこむが,明日朝からはBucharestで仕込みが始まる.機材は必ず僕らと一緒に動かなければいけない.
ここでちょっとごててみるが,これまた航空会社がうまく考えているのか偶然か,Frankfurtまでのキャリアであるポルトガル航空の規定なら,超過料金は約半分で済むという.じゃそれで,と即答しそうになるが,よく聞いてみるとその場合は,Frankfurtでいったん荷物を受け取って,再度チェックインし,そこでまたルフトハンザに料金を払って再度荷物を預けろと言う.つまりルフトの料金設定がかなり高いわけで,それを全行程に適応するか,もしくは分けるならいったん荷物が出てくると...
乗り換え時間は2時間.かなり迷うが,どうにも慎重になってあきらめてその場で支払う.人生勝ち負けで言うと,負けたようでかなり悔しい...でも荷物が出てくるまで待って,再度並んでチェックイン・交渉・コントロールを通ってセキュリティー検査を受けてBucharest行きに乗り込むまでを1時間40分程度で,しかもあの広いFrankfurt空港の中,8人全員でこなさなければいけないと思うと,どうもガッツが湧かなかった.
でも,しつこいけれど,負けたようで悔しい.
まあ,そのかいあって,深夜のBucharestOTP空港で,無事12個すべての荷物を受け取り,迎えに来てくださった日本大使館の方と落ち合う.
そして,25日中にセットアップから通しリハまで完了.まあ,たいしたもんだと自分を褒めておこう.(でも悔しい!)
写真は,Teatrul Ion CreangaとBucharestの光景(色)をLiddellで照明の数値に取り込んでいるところ.
Frankfurt
Bucharestでの公演は無事成功.
ただいま,帰途途中のFrankfurt.節約予算のフライトなので,なんと帰り着くまで36時間ほどかかる...
Bucharest-Frankfurt-Singapore-Bangkok-大阪.途中,ここで6時間,Singaporeで3時間のトランジット.
ちなみに,昨日27日から30日まで,京都芸術センターで「きりしとほろ上人伝」という,狂言師やら文楽の方やらが京都市だかの企画で集まって作ったパフォーマンスが上演されているのですが,その美術をキュピキュピの石橋君がやっていて,僕もLED照明のプログラムでちょこっと参加しています.といっても,まだ完成作を観ていませんが...
なので,30日には観劇予定.朝に帰り着いて夜には芸術センターへ.
ああ,ホットスポットの時間が切れる.では,今度はSingaporeからかな.
Entrance fee
10月26日27日29日:
やっと,Singaporeに到着.Bucharestを出てから20時間強.
話は前後するが,27日に無事にBucharest公演終了.
今回の舞台は,少し角度が付いている上に床が地絣敷き.地絣というのは,簡単に言えば床を被う大きな一枚布.歌舞伎の道具から来ていると思うが,日本舞踊などでも使うし,たぶん舞踏でもよく使う.Bucharestの劇場が用意した地絣は,中国の劇団が持ってきたものだといっていたから,京劇がルーツかも知れない.
monochromeのメンバーは,全員地絣初体験という事で,ずいぶん大変だったようだ.おまけに,地の床がとても状態が悪く,ある程度は養生してもらったもののデコボコがとれず,痛いし踊りにくいしという状態だった.
でも,公演自体は悪くなかった.ダンサーの皆さんゴクロウサマ.そして在ルーマニア日本大使館の方々,とてもお世話になりました.ありがとうございました.
ただ一つ残念なのは,すべて終わったあとから,今公演が無料だったと聞いた事.直前に聞いても有料にするのは無理だったかも知れないけれど,大使館の方と話はできたはず.
僕は,無料公演というのは絶対に納得できない.確かに,もともとかかる予算と入場収入では,到底つり合わないし,助成や援助がなければ作品の制作も難しい.それにお国柄というのもあって,インドなどでは劇場公演は基本的に無料だと聞いた事もある.
それでも,僕はいくばくかの入場料と自分の時間を対価に,会場に足を運んで作品を観に来てくれた人と関係を持ちたい.もちろん僕だって,「招待」で劇場に入る事もあるけれど,できるだけ料金を払う事にしている.だって,面白くなかった時に,ちゃんと文句言えないじゃん.それに,ただだといい加減に観る,という事もあり得ると思ってる.もちろん,みんなそうだというわけじゃないけれど...
ルーマニアの人が納得できる額でいいから,入場収入を取ってほしかったなぁ.
さあ,ではこれからタイ経由で大阪へ.
Shiga Theater
30日朝に帰国して,その夜に京都芸術センターへ.
キュピキュピの石橋君が美術を担当した「きりしとほろ上人伝」は,その舞台美術と全体の進行役である女義太夫の謡語りが素晴らしかった.でも話の内容は箸にも棒にもかからない.いくら原作が芥川だといっても,こんな時代にキリスト教の布教寓話を文楽・浄瑠璃・狂言絡みで作るという設定が,どういうつもりなのか理解に苦しむ.(といいつつ,そこでちょいと仕事をしていたわけだが...)
10月1日は,子供とすごす.すごくよく喋るようになっている.話し相手に,自分の欲求なり感情を理解してもらおうという姿勢で,彼女なりに理論を展開してきて,とても面白い.
10月2日,朝から滋賀会館で,Refined Colorsワークショップと公演の仕込み開始.
自宅から40分弱の通勤になるので,時差ボケの体にはきつい.しかし,昔からお世話になっている舞台屋さんのBさんや,ダムの若手がスタッフとしてかかわってくれているので,仕事はやりやすい.プランを立てていた図面と現場の寸法が違ったり,現場で考えようと後回しにしたまま忘れていた事など色々あったにもかかわらず,満足のいくセットが建つ.
PAも,ダムでオペレートしてもらっているFさんに手配してもらって,D&Bのパワフルなものを入れてもらった.今回わざわざ,通常のsubwooferよりさらに低音に特化したB2-SUBsを持ってきてくれはったので,広い会場にもかかわらずM鍋氏も満足するだろう,かなりの低音が出ている.
http://www.dmaudio.co.uk/b2.html
しかし,どうやらチケットの売れ行きが悪いようで,担当者が頭を抱えている.予算的な事もあるだろうけれど,それより結構な広さの会場なので,かなりがんばらないとぽつぽつとしか席が埋まって見えないのがつらい.
せっかくこれだけ時間もお金もかけてやるんだから,大勢の人に観てもらいたいなあ.
皆さん,大津はそんなに遠くないですよ.
そしてそして,ワークショップもまだまだ空きがあります.
http://cgi.shiga-bunshin.or.jp/shiga/event-syosai.php?number=1708
実際の舞台を使って,monochromeダンサーズのインストラクターも付いて,D&BのパワフルPAで自分の好きな音を鳴らして,しかも簡単に望むようにLED照明で色と光を操り,その中で踊るというこの企画.3日間で2000円という,破れかぶれな料金設定が,あまりにも安すぎたか?
希有な体験が出来るんですが...
というわけで,今日も滋賀に通います.
いや,ほんと,思ってるより近いです.
Rest
滋賀の公演は無事に終了.
今回のツアーの初めから取り組んできた作品のアップデートが出来て,個人的には大変満足.お世辞にもお客さんが多かったとは言えないけれど,内容的には,かなり密度があったと思う.
あの空間を贅沢に使わさせてくれた,滋賀会館には非常に感謝.やはり,必要な要素を全部組んで,いろいろ試せる場所がないと,作品のアップデートは難しい.
公演後の打ち上げに,久々に街に出て,いまだ時差ボケが残っていることを実感.公演時間が早かったので,街に出たのも早かったのだが,いやあ眠い眠い.
その後2日間,子供と同じリズムで過ごして,早寝早起きを心がけるが,いまだ何となくぼーっとしている.
しかし,今からダムの公演でメルボルンに出発.時差がないのがせめてもの救いか.