福島の一号機メルトダウンの発表を受けて、「知らなかったでは済まされない」とか、「知っていたことを隠していただろう」という意見をよく聞くが、それはあくまで福島の話で、東電や政府を攻めることで話は終わっている。
でも、今頃やっと意識しだして、本当に申し訳ないのだが、僕らがいま考えなければいけないのは、「知ってしまったらどうするのか」ということなのではないだろうか。
それはもちろん、既に東京にまで降り注いでいる放射性物質のことでもあるし、現在福島のこども達に課せられている20ミリシーベルトまで安全だという、誰が決めたかも結局はっきりしない基準でもある。
そしてさらに話を進めるなら、それは当然、原子力発電自体に行き着くと思う。地震の危険性があるから、浜岡原発を止めたという個々のレベルではなくて、原子力発電全般だ。
もう本当に「知らなかったでは済まされない」のだが、僕は今まで原発に関するいろいろなことを知らなかった。
危険なものだと思っていたし、放射性物質は大変な毒だということも理解していたし、チェルノブイリのドキュメントも観ていた。でも、以下のことは知らなかった。それは、原発の発電コストが高いとか発電と送電が一体化している不合理だとか、そんなちっちゃなことではないのだ。
まず、原発の施設としての寿命は、世界的に平均40年で、それを越えるとぐっと危機管理が難しくなり、従って現状を維持しようと考えると、また新たな原発を作らないといけない。
そして、長年にわたって放射線を受けていると、その物質も高濃度の放射能を帯びて、使用済み燃料と同じ位毒性のあるゴミになる。つまり原子炉自体も高濃度放射性破棄物として、処理しなくてはいけない。
それらの超危険なゴミは、何10万年と安定している地層に安全に保管すると電力会社は言っているが、現在までその保管に同意する地はなく、安全に保管したいんだけど「できない」猛毒のゴミが、そこら中の原発に水に沈めて保管されている。
「燃料プール」などと、もっともらしい名前を付けているけれど、あれは猛毒のゴミ溜めだ。しかも、いったい誰が、ここはこれから10万年以上安定したままだから、毒を置いておいても未来永劫安全だと、断言できるのか?
おまけに、ウランの埋蔵量は、当たり前だが有限で、諸説あるがいずれにせよそのうち尽きてしまう。
残るのは、廃炉にしなければいけない「使えない」施設と、猛毒のゴミ。
ざっと、こういうことを震災前には、僕は知らなかったけれど、今は知っている。
つまり、上記の事実を言い換えると、僕が生きている間くらいしか使えない電力発生機を使うために、何万年も何十万年も消えない毒を作り出して、その毒は自分たちの手持ちの技術では無毒化できず、その閉じ込めの見通しもつかないということになる。
これは、一体全体どういうことか?
例えば、乱暴な例だけど、隣のウチが上のようなことを言い出して、猛毒のゴミを出しつつ電気をガンガン使っていたら、あなたはどうする?
僕なら猛烈に抗議するし、しかも警察などの国家機関は、その行為を止める権利があると信じる。自分も、毒を吐き出しつつ、電気を作ろうとは思わない。だって、自分では無毒化できないし、何処に捨てればいいかも決められないのだ。
しかも、時間というファクターがあるので、ことはもう少しだけ複雑で悪質だ。
つまり、あと何世代かしたら、このまま今の事態が収束し「安全」に原発を使い続けられたとしても、原子力発電は資源が枯渇して有効な手段ではなくなるだろう。その時には、役立たずの施設と毒のゴミだけが残る。
僕たちは、まあ仕方がない。原子力エネルギーで、夏も涼しく過ごしたし国の競争力も増し、豊かな暮らしを楽しんだ。
でも、少しだけ未来のこども達には、糞みたいなゴミだけを押し付けることになる。
自分がその立場だったら、どれだけ過去の老人達を罵倒するだろう。いや、考えてみれば、時間だけではない。経済力などの問題で、いま原発を持たない国もたくさんあるのだ。いずれ、それらの国にも、福島の放射能は迫っていく。海にも空にも壁なんてない。
僕は、今まで、有害なのは知っているが、少なくとも見かけ上だけでもきちんと処理して、安全なふうに埋設されていると思っていた。ただ何となく。
でも、現在、多くの人が上記の事実を知ったわけだ。僕も知った。つまりこれは、僕の問題だ。