年の瀬で,ようやく溜まっていた雑事も一段落,日本の社会的にも休暇ムードが高まって,メールの数も激減.この機会に,机まわりの大掃除に着手し,あわせて平積みになっていた未読の本を読み始める.
そして,Michael S. Gazzaniga著「脳のなかの倫理—脳倫理学序説」と,中田力著「脳の中の水分子」を,ようやく読み終えた.
カタカナ表記ではガザニガさんと書かれているGazzanigaは,2001年にアメリカ合衆国の大統領生命倫理評議会のメンバーに選ばれた,古参の脳機能研究の専門家.ブッシュの評議会のメンバーかいと思いきや,とても現実的に「科学」の立場から倫理学にアプローチした,好感の持てる内容.
特に,人間の「信念」が如何にさしたる根拠もなく形成されるかと,直感的な道徳的判断(例えば,他人をむやみに殺してはいけないとか)は人類にほぼ共通するものだが、その解釈や理由付けが文化や個人によって異なるのだというくだりは,当たり前の事なんだけど,こういうポジションの人の発言としては秀逸.
まあ,その意見が自分の思うように現実に反映されてれば,本なんか書かないんだろうが,読むほうとしては分かりやすく現在の状況が,医学的専門家の視点で整理されている好著.
一方の中田力さんは,日本の文部省学術審議会により,中核的研究拠点のプロジェクトリーダー(何のこっちゃか,分からなさ過ぎ)に選ばれた,新潟大学統合脳機能研究センターの設立者.また,MRIやその進化系のfMRIという,今では当たり前になった,生体の状況をその本体を傷める事なしに観察できるようにした装置の開発者として,その筋では有名な専門家.
この人の心のお師匠さんというべき人が,ライナス・ポーリング博士という,ノーベル賞を2つも(化学賞と平和賞)もらった凄い人で,そのついに直接会う事の無かったポーリング博士の仮説との出会いが,中田さんの思考のエンジンとなって,如何に「脳と心/(意識)」の研究に発展していったかという話し.
これがまあ,探偵小説でも読むかのように,スリリングで面白い.
ある種の天才,とまでは言わないまでも達人には,人間的な余裕があって,自分のまわりの状況を苦境も含めて全て楽しんでいるように見受けられる事がある.まあこれは,回想として語られるからそうなのかもしれないが,そのあらゆる状況を楽しみつつ次へと向かうポジティブな思考の発展が,少々小難しい理論のパートも読み進めさせてくれる.
これがこの中田さんの最新刊なのだが,読み終えたらもうすぐに既刊の全二冊,「脳の方程式いち・たす・いち」と「脳の方程式 ぷらす・あるふぁ」が読みたくなってしまった.
今年こそ、どこかでお会いしたいと思っております。ふつつか者だからか、周囲の皆様はいつも暖かく、優しくしてくれます。甘んじることなく今年もがんばります。ダム・タイプの皆様にもよろしくお伝えください。
ご家族皆様、良い一年になりますように・・・・・・。